『巨大少年魔剣士<シティ・クリーバー>』


【序】


その日の舞山市は厚い雲に覆われ、冷たい風に枯れ葉が舞っていた。
午後4時20分を差した、古ぼけた時計台が血糊を浴び、赤く染まっている。

「うあああっ…ンッ・あああ〜〜〜」

変声を迎えぬ少年の高い呻きが街中響き渡り、小高い丘の上に仰向けに持ち上げられた人影が宙で暴れた。

身長100メートルはあろうかというスレンダーな少年の肉体には巨大な蛇が何匹も巻きついて自由を奪い、
さらに大きな牛の角を頭に生やした毛むくじゃらの大男が、両腕で少年の体を、
街の中心部に立つテレビ塔より高くまで持ち上げている。
足元には蛇の死骸が何十匹も横たわっているのが見え、死闘の凄まじさを物語っていた。

「アマリ暴レルナ、『シティ・クリーバー』」

両耳に半分かぶるぐらいの、ストレートショートの黒髪が汗でぴったりと額や頬に張りつき、
栗色のぱっちり二重瞼の、育ちよさげな中性顔が歪む。
体形は二次成長が始まる直前くらい。耳にはさくらんぼのピアスリング。
ボディをピチピチに覆うナイロンのような材質の、紺のレオタードはやや小さめで食い込んでいる。
胸や肩には合金製の甲殻パッドが施され、食い込んだハイレグから伸びる生肌の腿の下は脛当て、
肘から先は手袋をつけていた。

『シティ・クリーバー』という愛称の由来する片刃の幅広剣は真っ二つに折れ、古墳山の中腹に突き刺さっていた。

巨大な少年魔剣士は蛇の毒牙から逃れんと腰をくねらせ、宙でもがいてる。
うっすらタイツに浮き上がったアバラの下、腹部の生地に窪んだおへそが踊る。
その下、股にほんのり浮き出た男の子の象徴さえなければ、まだまだボーイッシュな貧乳少女でも通りそうな細身の肢体。
「男性」への成長がまだ始まったばかりの少年の、丸みを帯びたボディラインを浮かびあがらせている。

「先生!鍋島君が<シティ・クリーバー>だったんです」
「堤先生!なんとかしてあげて!樹(いつき)がやられちゃう!」

涙ながら腕にすがる子供たちを抱きしめながら、若い教師が唇を噛んだ。
鍋島樹(なべしま・いつき)。クラスでも平凡だった男の子。
どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのだろう?
チャンスはいくらでもあったはずなのに。

(くそっ…俺は…俺はどうすれば…!?)

あたりはぽつぽつ雨雫が当たり始めていた。

「はぁっ…あアッ〜〜…!」

再度響いた悲鳴。見上げた雲の中に太陽は見当たらなかった。





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